Wednesday, March 30, 2011

30/03 震災と暮らし―一冊の本とボールの力を

 被災した人に必要なものは。

 水。食べもの。安心して眠る場所。暖房。医薬品。ガソリン……。

 どれもまだまだ、十分ではない。全力で不足を埋めなければならない。

 それらを追いかけて、届けたいものがある。

 心を柔らかくしたり、静めたり、浮き立たせたりするもの。想像の世界へ誘ったり、考えを深めたり、元気がわくのを助けたりするもの――文化とスポーツだ。

 被災を伝えるたくさんの写真の中で印象に残った2枚がある。

 1枚は、避難所のストーブを明かりにして本を読む子の落ち着いた表情。もう1枚には、サッカーをする少年たちの笑顔が並んでいた。

 一冊の本。一つのボール。

 それは子供たちが生きるための必須栄養素だ。もちろん、おとなにも。厳しい日々には、なおさら大切だ。

 求められれば被災地に駆けつけたいと考えている芸術家やスポーツ選手は多い。彼らが表現する「美」や「強さ」が、できるだけ早く、傷ついた人々のもとに届くのを願う。

 地震の被害をあまり受けていない地域でも、様々な行事の中止が相次いでいる。被災した人たちを思い、楽しみを慎むべきだという考えも理解できないではない。しかし、文化やスポーツの催しをむやみと自粛しては、社会から元気を失わせる。被災地を支え、経済を再生し、新しい日本を築き直す日々は長く続く。そのための活力を蓄え、維持するためにも、出来る限り、いつも通りの日々を取り戻したい。

 もちろん電力不足への十分な配慮は必要だ。

 東京では、照明やエレベーターなどを最小限に抑えて、公演を再開した劇場が多い。暖房を切り、観劇はコートを着たままで。様々な工夫で電力使用量を4割以上減らした劇場もある。

 普段ならば、シャンデリア輝くロビーの豪華な雰囲気も劇場や音楽ホールの楽しみの一つだ。それを今は我慢しよう。でも、表現活動は決して萎縮しないようにしてゆこう。芸術は「精神の自由」のともしびなのだから。

 プロ野球は、決定までにセ・リーグで二転三転したが、開幕を来月12日に延ばし、4月中は東北・東京電力管内でのナイターはやらないことにした。選手たちは初めから、試合日程が厳しくなることを承知で開幕延期を主張してきた。太陽の下、素晴らしいプレーを見せてくれるだろう。

 選抜高校野球はテレビ中継の時間短縮など、節電と共存しながら開催している。被災地の学校も甲子園にやってきた。白球を追う若者の姿に、力を得た人も多いに違いない。

 心に届くもの。それが苦難の時代を生き抜く糧になる。

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