Tuesday, April 26, 2011

26/04 余録:第二次世界大戦で一時は苦境に立った英国を勝利へと導いた首相…

 第二次世界大戦で一時は苦境に立った英国を勝利へと導いた首相チャーチルが、戦争終結を目前にして総選挙に敗北した時だ。おりから開催中のポツダム会談では、野党党首アトリーに全権を引き渡して帰国するはめになってしまった▲「これは変装した祝福なのかもしれませんわ」。こうなぐさめた妻にチャーチルは返した。「いまのところ実に効果的に変装しているようだ」。非常時に国民を救った歴史的指導者からも戦勝の栄光を奪い去り、失意のどん底に追い込んでしまうのだから選挙は怖い▲逆に言えば英国民は見事に非常時の指導者を使いこなし、役目がすめばさっさと使い捨てたのである。さてこちらは震災と原発災害という未曽有の非常時のさなかである。そこでの危機対処にあたっている政権与党の地方選挙での退潮をどう読み取ればいいのだろう▲菅政権には厳しい国民の評価をうかがわせる統一地方選の結果だった。だが首相は「震災への対応では政府を挙げてやるべきことはやってきている」と震災対策の失敗が敗因との見方に反論した。もう少し国民の不信に正面から向きあってはどうかといいたくもなる▲ただ今は、誰も収拾への最善策を描けぬ非常事態の真っただ中だ。そこで被災地支援や原発災害収束のすべての結果責任を負う首相である。この責任者を何の先の見通しもなく引きずり降ろせという声を与党内から聞くようでは、日本政治の無責任に世界があきれる▲まさか首相は自らをチャーチルになぞらえてはいまい。ただしかるべき審判を国民が安心して下せるよう、危機克服を果たすのが非常時の首相の仕事である。毎日新聞 2011年4月26日 東京朝刊

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