Wednesday, March 23, 2011

23/03 55階まで30分…都心の超高層マンションに潜む不安

2011年3月23日9時8分

JR三鷹駅前にある2棟の超高層マンション。永守ヒロさんは夢中で階段を下りた

 東日本大震災では、首都圏の高層マンションで暮らす住民も大きな揺れに見舞われ、エレベーターの緊急停止で階段の上り下りを余儀なくされた。快適な摩天楼の暮らしに潜む不安や苦労も浮かび上がった。

 東京都中央区の超高層マンションの55階に住む主婦(32)は11日午後2時46分、1人でいたリビングで地震に遭い、とっさにテーブルの下に隠れた。ゆっくりした横揺れが5分程度続き、天井のシャンデリアが30~40センチ揺れた。

 度重なる余震が怖くてテーブルの下に潜ったまま、長男(5)と次男(1)を預けている保育園や夫に電話をかけ続けたが、1時間余り経っても通じない。午後4時ごろ、「らちが明かない」と保育園に迎えに行くことにした。

 ところが、高さ約180メートルの55階から十数秒で1階に到達するエレベーターが緊急停止していた。巡回中の警備員から「故障がないか点検中で、復旧の見込みは立っていない」と聞き、やむを得ず非常階段を10分で駆け下りた。

 約3キロ先の保育園はバスに乗れば15分で着く。だが、この日は保育園の送迎バスが中止され、路線バスも満員で乗れず、40分かけて徒歩で向かった。その途中で携帯電話が保育園とつながり、子どもの無事が確認できた。

 子どもと一緒にマンションに着いたのは午後5時半ごろ。3階の共用ルームでエレベーターの復旧を待つうちに午後7時になり、子どもが空腹を訴えたため、まず1人で55階まで階段を上り、背負えるタイプのベビーカーを担いで3階へ。ベビーカーに次男を乗せて背負い、長男の手を引いて再び55階まで上った。

 「長男も子供心に『大変な事態だ』と感じたのか、わがままも言わず、小さな荷物も持ってくれた」。それでも20階に1回ずつの小休止が必要で、上るのに30分かかった。結局、この日は自宅と保育園の往復に普段の8倍の4時間を費やすことになった。

 15日夜、静岡県で震度6強を観測した地震で再び照明が大きく揺れた。4日前の恐怖がよみがえり、壁の額などを外した。医師の夫は被災地に派遣される可能性もある。「夫がいないときに地震が来たら子ども2人と非常階段で下りられるか、心配です」

■ひざを痛めた85歳、24階から階段降り…

 JR三鷹駅に近い超高層マンションの24階に住む永守ヒロさん(85)は地震発生時、編み物をしていた。激しい揺れにしゃがみ込み、グランドピアノの脚にしがみついた。「どうしたらいいの」と叫んだが、息子夫婦は外出中で誰もいない。

 船酔いするようなゆったりした横揺れで、食卓や食器棚からコップなどが次々に落ちて割れ、部屋のドアがバタンバタンと開閉した。

 「とにかく外へ」と、自宅を出たが、エレベーターは止まっていた。調子の悪い腰とひざにも構わず、7~8分かかって階段を1階まで下りた。たどり着いた瞬間に足が痛み始めたが、フロントの担当者から渡されたひざ掛けとコーヒーで人心地ついた。

 午後6時半ごろに非常用エレベーターが動き始め、自宅に戻った。「揺れが怖くて、もうだめだと思った。夢中だったから下りられたのでしょう」と振り返る。

 地震以後、外出を控えるようになった。足の痛みに加え、再び大きな揺れがあってエレベーターが止まり、家に戻れなくなることが心配だからだ。被災地を思い、知人との食事会も取りやめた。17日に初めて買い物に出て米屋に並ぶ人の多さに驚いた。

■余震のたびに壁に亀裂

 中央区の40階を超えるマンションの一つでも余震のたびに部屋全体が回るように揺れ、キー、キーときしむような音が天井や壁から聞こえた。

 船酔いするような揺れは高層マンション特有のものだ。過去の地震でも同様の現象が起き、そのたびに管理会社が「構造に問題はない。揺れを逃がすための音」と張り紙で説明してきた。今回の地震でも、安全を強調する張り紙が次々と入り口やエレベーター内に張られた。

 同じマンションで震災翌日、大型スーツケースを引いた中年夫婦がフロントを訪れた。「壁にひびが入って粉が落ちてきた。こんな危ないマンションには住んでいられない」と怒鳴った。慌てた管理会社員が引きとめ、夫婦と共に室内の点検に向かった。

 31階に住む女性の住居では居間に2カ所、トイレに1カ所、壁紙に亀裂が入っていた。余震のたびに亀裂は上下に広がり、天井から床まで一直線に。はがれかけた壁紙の内側の石膏(せっこう)ボードにも幅1~2ミリの亀裂が入っていた。

 管理会社によると、石膏ボードの継ぎ目がずれて亀裂が生じた可能性が高い。構造的な危険性はないが、全住戸を対象に被害状況のヒアリングを行っている。(千葉恵理子、菅野みゆき、有吉由香)

No comments:

Post a Comment