Sunday, March 27, 2011

27/03 福島第1原発:事故の影響 世界で広がる見直し

 東日本大震災で被災した福島第1原発事故の影響が、世界各国に広がっている。ドイツが1980年以前に稼働した老朽原発7基の運転を3カ月間停止する措置に踏み切ったほか、中国も新規原発の審査を一時中断、イスラエルなどが計画中止を表明した。運転中に二酸化炭素をほとんど排出せず、地球温暖化対策の切り札として近年、再び脚光を浴びた原子力発電だが、再び「冬の時代」に逆戻りするとの懸念も出始めている。【ロンドン会川晴之、ワシントン斉藤信宏】

 ◇EU、検査強化で合意 反原発運動が活発化
 86年にチェルノブイリ原発事故を経験した欧州諸国は、今回の原発事故にいち早く反応した。欧州連合(EU、加盟27カ国)は15日の特別会合で域内諸国の原発の安全性検査を実施し、耐震性や津波対応に加え、冷却装置など、今回の事故で浮き彫りになった問題点を検査することで合意。25日の首脳会議で正式承認した。

 チェルノブイリ事故後、欧州では原発懐疑論が高まり、イタリアなどが原発建設を凍結、英国など多くの諸国も新規計画を見合わせた。だが、当時と違い、エネルギー価格は高騰、風力など再生利用エネルギーのコストはまだ高く、EUの4分の1の電力を供給する原発に代わるエネルギー源確保は難しい状況にある。

 経済協力開発機構(OECD)のグリア事務総長は「原発は欧州の電力供給で重要な位置を占める」と強調。国際エネルギー機関(IEA)の田中伸男事務局長も「地球温暖化対策のためには原発は不可欠」と述べるなど、各国に慎重な対応を求めている。

 欧州最大の原発メーカーである仏アレバは「信頼回復が極めて重要」と、対話に努める姿勢を強調する。ただ、事故を機に、ライバルである日本メーカーが商戦から脱落する可能性が高いとの計算も働く。

 しかし新規原発の審査を一時停止したスイスでは、直近の世論調査で反対派が87%を占めた。2年前は賛成が73%で、賛否が逆転した。ドイツでは26日、ベルリン、ハンブルクなど4都市で25万人規模のデモが実施されるなど、反原発運動が活発化している。

 ◇中国、新規建設計画を一時停止
 中国は16日に、新規原発の建設計画の審査と承認を一時停止した。

 急増するエネルギー需要を背景に、現在の13基の原発に加え、今後新たに25基建設する計画だが、国民の不安が高まっていることを考慮した。政府は「導入予定の原発は、より安全な新世代」と安全性を強調する発言を続けている。

 ◇イスラエル、ベネズエラ計画断念
 計画停止も相次ぐ。イスラエルのネタニヤフ首相は17日、同国初の商業用原発計画の中止を表明した。同国沖で天然ガスが発見されたのも一因だ。

 ベネズエラのチャベス大統領は23日、計画断念を表明した。

 ◇トルコは続行表明
 一方、日本と同じ地震国のトルコは、エルドアン首相が「原発計画を停止する考えはない」と強調する。19年運転開始予定の黒海沿岸の原発は、東芝・東京電力の企業連合が交渉を続けているが、ユルドゥズ・エネルギー天然資源相は24日、交渉期限を今月末から年内いっぱいに延ばす考えを示すなど、日本の状況に配慮する考えを表明している。

 79年のスリーマイル島原発事故以後、約30年間、原発の新規着工を凍結してきた米国は10年1月、着工容認に転じ、現在は24基の新設計画が進行中だ。

 ◇支持派は14ポイント減…米国
 オバマ大統領は、就任直後から「エネルギー需要の増大に対処し、気候変動の被害を食い止めるためには原子力発電の拡大が不可欠だ」と主張してきた。しかし、福島第1原発事故後の米CBSテレビの世論調査で、新規原発建設支持派が43%と、2年半前に比べて14ポイント減少するなど国民に不安が高まっていることに配慮し、「国民の安全のため、責任ある対応が必要」と、安全性の検証を急ぐよう原子力規制委員会(NRC)に指示した。

 ただ、米政府が原発建設の凍結に動いたわけではない。米政府は昨年2月、ジョージア州の原発2基向けに約83億ドル(約6700億円)の融資に対する政府保証を決定。25日にはNRCが「ボーグル発電所で建設許可の妨げとなるような環境への悪影響は見つからなかった」と発表し、原発建設への事実上のゴーサインを出した。

 世界最多104基の原発が稼働し、電力の約20%を原発で賄う米国では、国民の不安を和らげつついかに計画通りに原発建設を進められるかが今後の焦点となっている。

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毎日新聞 2011年3月27日 20時05分(最終更新 3月27日 20時25分)

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