Sunday, March 27, 2011

21/03 asahishimbun - 天声人語

2011年3月21日(月)

 10日ぶりに二番手のニュースを取り上げる。曽野綾子さんの『アラブの格言』(新潮新書)にモロッコの警句がある。「判事の下男が死ねば皆が弔いに行くが、判事の葬式には誰も行かない」。なるほど、権力者とは悲しいものだ▼権力者に従う者はもっとつらい。とりわけ権勢の末期である。リビアでも今ごろ、カダフィ大佐の側近らが右往左往しながら、身の振り方を案じていようか。反体制派を追い詰めるリビア政府軍に対し、英仏米などが空海から一斉攻撃に出た▼反政府の動きは東部ベンガジから広がったものの、武力に勝る政府軍がたちまち盛り返し、蜂起の市民がひどい目に遭う矢先だった。そこに、多国籍軍の「人道的介入」を認める国連決議である▼「アラブ民主革命」はチュニジアに始まり、エジプトの長期政権を倒し、アラビア半島に飛び火した。盤石にも見えたリビア独裁体制の行く末は、北アフリカと中東の明日を占う。欧米も勝負どころと踏んだようだ▼40年におよぶ己への畏敬(いけい)と服従。その源泉が人徳なのか強権なのか、葬列の長さを思うまでもなく、カダフィ氏にも見当はつこう。大佐だからといって、多くの国民を道連れに戦死を選ぶことはない。白旗の用意をお勧めする▼先の格言集には「遠い戦いの太鼓は甘い音楽」というのがある。日本では「対岸の火事」だが、世界経済に遠い戦争はなく、油田で交える砲火に縮こまるだけである。このうえ油価が上がれば、すでに厳しい日本のエネルギー基盤が揺らぎかねない。揺れはもうたくさんだ。

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