Monday, March 21, 2011

20/03 asahishimbun - 天声人語

2011年3月20日(日)付

 いつもの週末に比べて、銀座や表参道の外国人は目に見えて少なかった。観光客ばかりか、出張者や留学生、外交官までが日本脱出を急いでいるらしい。物心の支援に感謝しつつ、この国は自らの手で立て直すしかないと胸に刻んだ▼大震災の被害はいまだ全容を見せず、避難所や病院で力尽きるお年寄りが後を絶たない。福島の原発では、四つの原子炉が悪さを競うように日替わりで暴れている。津波と原発事故。二つの怪物を伴うこの災いは、10日目を迎えてなお「発災中」の異様である▼3月11日をもって、大小の非常が始まった。関東では輪番停電が常となり、スーパーの空き棚も目につく。ガソリンや電池の買いだめは関西でもというから、国中がすくんでいるのだろう▼がれきの街には、愛する人の記憶をまさぐり、泥まみれの面影を抱きしめる姿がある。「泣きたいけれど、泣けません」。被災者ながら、現地で体を張る看護師長の言葉である。戻らぬ時を一緒に恨み、足元の、そして来るべき苦難に立ち向かいたい▼地震の1週間後、東京スカイツリーが完成時の高さ634メートルに届いた。この塔が東京タワーを超えた昨春、小欄は「内向き思考を脱し、再び歩き出す日本を、その高みから見てみたい」と書いた▼再起のスタートラインは、はるか後方に引き直されるだろう。それでも、神がかりの力は追い込まれてこそ宿る。危機が深いほど反発力も大きいと信じ、被災者と肩を組もう。大戦の焼け野原から立ち上げたこの国をおいて、私たちに帰るべき場所はない。

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