Saturday, May 7, 2011

05/05 余録:赤ちゃんが生まれて初めて家から出た時だ…

 赤ちゃんが生まれて初めて家から出た時だ。戸外で最初に出会った人を「行き会い親」とする地方があった。通りかかったのが子供でも「親」にしてしまった。「名付け親」もその一つだが、このような儀礼的な親を「仮親」という▲昔は実にたくさんの仮親があった。妊娠中に岩田帯を贈ってくれる「帯親」、産婆とは別に出産に立ち会う「取り上げ親」、赤ちゃんを最初に抱く「抱き親」、生後2日間お乳を飲ませる「乳付け親」、丈夫に育つ儀式として捨て子のまねをする時の「拾い親」……▲その後の成長の節目となる行事や儀式でも仮親ができたが、この儀礼的な親子関係は一生続いた。「1人の子にたくさんの親」というしきたりは、子供の成長を見守る親族や地域のネットワークの象徴だったのである(小泉吉永著「『江戸の子育て』読本」小学館)▲この仮親らも招いて子の成長を祝う席が設けられた端午の節句だ。その流れをくむこどもの日だが、今年はこの日までに何度震災で被災した子供たちの話に涙したことだろう。波にのまれた成長への祈り、奪い去られた未来を思えば、5月の薫風すらうとましくなる▲仮親の儀礼の背景には、乳幼児の死亡率が高かった昔の大人らの切実な祈りがあった。そんな血縁、地縁ぐるみで子をいつくしんだ人々の子孫であるわれらだ。ここは肉親を失った子、心に傷を負った子らのために何かできることはないかと思いをめぐらしたくなる▲小社も震災遺児のための奨学金の募金を始めたが、人それぞれにやり方はあろう。できるだけ多くの「行き会い親」の手で奪われた未来を少しでも取り戻したい。

毎日新聞 2011年5月5日 東京朝刊

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