Thursday, June 30, 2011

30/06 余録:中国の経済規模が日本を追い抜いた時…

 中国の経済規模が日本を追い抜いた時、中国商務省の報道官は記者会見で1枚の写真を掲げた。それは中国を改革開放へ導いたトウ小平氏が1978年に来日して新幹線に乗った際の写真だった▲「速い、速い、後ろから誰かが鞭(むち)をもって駆り立てているようだ」。トウ氏は中国の経済発展も日本の資金や技術を導入して急がねばならないと語った。それから33年、中国共産党創立90周年を翌日に控えたきょう、北京-上海間を5時間弱で結ぶ高速鉄道が開業する▲だがこの高速鉄道、日独の技術供与を受けながら独自開発として米国などで特許申請するという。いわばコピー技術で高速鉄道の国際商戦に乗り出すつもりらしい。いやはや「速い、速い」とあきれるのは今度は日本側だ▲トウ小平氏の改革開放とその外交路線は「韜光養晦(とうこうようかい)」と呼ばれた。力を隠して蓄えるという意味のそれは、経済発展のために平和的な国際環境を優先する路線だ。先の商務省の報道官も、今なお日本に学ぶべきことはあるという話のためにトウ氏の写真を持ち出したのだ▲しかし今日、海洋権益を声高に主張し、大国主義まる出しの力ずくの対外行動で国際的波紋を呼び起こす中国である。経済的な自信を背景に、韜光養晦からむき出しの力による国益追求への路線転換が進んでいるのか。疑念を募らせる国際社会が身構えるのも当然だ▲勃興する力の渦の中、自らあるべき姿を見失ったのは中国自身かもしれない。高速鉄道は安全に配慮し、最高速度を下げて開業するという。国の対外行動も一度後ろから鞭をもって駆り立てる者の正体を見極め、もっと安全を考慮してはどうか。
毎日新聞 2011年6月30日 東京朝刊

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