Saturday, June 25, 2011

25/06 編集手帳 - 小さな買い物ひとつにも、何かを考えさせてくれる震災である


6月25日付

 机に据え付ける金具が折れて、自宅で使っている卓上スタンドを買い替えた。今度のは半導体の一種、発光ダイオードを光源にするLED電球である。少々値段は張ったが、こういうご時世でもある。消費電力は白熱電球の約5分の1、寿命は約5万時間!――と告げる売り場の広告パネルに負けた◆不摂生の身で帰宅は深夜が多く、平日は2~3時間ほどの点灯である。計算してみると、どうやらスタンドのほうがご主人よりもずっと長生きするらしい◆そう考えだすと何やら、スタンドを使っているというよりは、自分の次にこのスタンドを使うだろう誰かから光を拝借しているような、そんな気分にさせられるから不思議なものである◆アメリカ先住民の語り伝えをものの本で読んだことがある。〈自然とは祖先から譲り受けたものではない。子孫から借りているものだ〉。そう記憶している。新しいスタンドを前にしての、わが愚考といくらか似ていなくもない。里山、海、空気…子孫から借りながら傷つけてしまったものの数々に思いあたる◆小さな買い物ひとつにも、何かを考えさせてくれる震災である。
(2011年6月25日01時19分  読売新聞)

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