Saturday, May 28, 2011

28/05 海水注入問題 政府と東電の情報共有を密に(5月28日付・読売社説)

 東京電力福島第一原子力発電所の現状は、本当に東電が公表している通りなのだろうか。

 そうした不安を抱かせる事態だ。

 首相官邸の意向で東電が「中断」したとされてきた福島第一原発1号機への海水注入が、実は現場の判断で継続されていた。東電が突然、そう発表した。

 海水注入は、震災翌日の3月12日夜から始まった。淡水が枯渇したため、炉心を冷却する唯一の方策だった。それを「中断」すればさらに過熱が進む。

 東電本店の「中断」の指示に反して、独断で海水注入を続けた吉田昌郎・福島第一原発所長の判断は、結果的には正しかった。

 だが、それを速やかに本店に報告すべきだった。そうすれば大きな問題にならずに済んだ。

 実際には国会で、「中断」に官邸の意向が働いたかどうかを巡って経緯説明を求める声が、菅内閣の責任追及とともに高まった。東電の発表を基に読売新聞など報道機関も「中断」と報じた。

 その前提が誤っていた。

 政府も東電も、本来なら、事故収束に集中すべき貴重な時間を浪費したことになる。

 重要なのは、事故の早期収束を目指すとともに、原因を究明して再発防止策を探ることだ。事実関係が容易に覆るようでは、重大な過誤が起きかねない。

 東電は、事実をもれなく記録して政府に報告し、公表すべきだ。政府も、不明な点は、確認しなければならない。

 事故調査・検証委員会や、国際原子力機関(IAEA)への情報提供も正確を期す必要がある。

 今回の一連の騒ぎを通じて、政府・東電関係者の間で十分な意思疎通がないばかりか、議事録など事実関係の記録も乏しい実情が浮き彫りになった。

 互いに、「中断」の責任をなすりつける動きさえあった。政府と東電の間はもちろん、東電内部でも、東京の本店と福島第一原発の現場の連携が欠けていたことの証左だろう。

 事故収束が難航している今ほど情報を共有し、的確な判断をすることが大切な時はない。

 政府は27日、原発周辺の放射線測定値について、東電が公表してきたもの以外にもデータが存在することを明らかにした。こうしたことが相次げば、東電の情報の信頼性は揺らぐばかりだ。

(2011年5月28日01時29分 読売新聞)

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